「あのさ、永遠子ちゃんさ。アオイの前と俺の前じゃ態度全然違うよな?」
 いつもはあまり口数の多くない重信だったが、ここにきて、とうとう本音が口から零れる。
「ってか、馴れ馴れしく永遠子の名前呼ばないでくれない? あなたと知り合いになったつもりなんて全くないんだから。その前に、よくも図々しくアオイの家に来れたわね。どんな図太い神経してるのかしら」
 メラメラとどす黒い殺気を放ちながら、永遠子はさっと重信を避けるように適当な距離をとった。そして、威圧的な態度で腕組みまでしている。
「……」
 態度の豹変に、驚くというよりかは呆れが勝り、重信の心境は、まさに正体見たり状態である。

(苗字知らないんだから、しょうがないだろ……。永遠子ちゃんじゃなきゃ、なんて呼べばいいんだ? 呼び捨て? というより、図々しいのはお互い様だろ)

 何も言い返さない重信の様子を見て、余計に強気になったのか、
「言ったでしょう? あなたなんかにアオイは渡さないって。永遠子は、あなたなんかよりずっとアオイのこと知ってるんだから」
と、はっきりとそう言い切った。そして、黙ったままの重信に更に追い打ちをかけるような言葉を続ける。
「あなたがアオイにとっての何なのかは知らないけど、きっとアオイにとっては大した存在じゃないに決まってるわ。だって、あなたったら、アオイの家の事情も知らないんでしょう? アオイの夢が何か知ってる? アオイが今までどんな苦労をしてきたのか知ってるの?」
 重信は、その問い掛けに対して返す言葉を失った。
 事実、重信とアオイの付き合いはまだ短い。アオイの家の事情は勿論、夢も辛さも、何一つ知らないことに今更ながら気がついたのだ。