重信の目に映ったのは、片付けられてスッキリとしたアオイの部屋だった。思いの外、几帳面な性格らしい。いつもは大ざっぱで、細かいことなんか気にしないように見えたのに、そのギャップに重信は少々驚いていた。
 小さな黒いテーブルと、同系色の素材のベッド。布団カバーは濃い青だ。
(そういえば、アオイのヘルメットにも青色が入ってたな……。青が好きなのか?)
なんて、新たな発見をしつつも、重信はテーブルの上に置かれた本に気付く。数冊の本は、ア
オイがいつも読んでいる自転車雑誌だ。二段式の本棚にも、自転車に関する本がぎっしりと埋まっていた。
 それに、壁に貼り付けられたポスターは、どこぞの国のバイクトライアル選手が、険しい山を自転車で下っているもの。アメリカか、ヨーロッパか……。
 あとは、部屋の隅に置かれたワークデスクの上のノートパソコンと、数冊のノートだけという、いかにもすっきりとして部屋だった。
「何飲む?」
 アオイに急に声をかけられて、思わずドキッとする重信。ひょっとして、勝手にアオイの私室観察をしていたことがバレたのではないかと思ったのだ。
「アオイが入れてくれたものなら、なんでもいいよ!!」
 永遠子がすかさず猫撫で声で答える。
「……はいはい、永遠子はココアな。ハギはどうする?」
 流石はアオイ。永遠子の好みはすっかり把握しているようだ。
「じゃあ、同じので」
 小さく頷いて、アオイが飲み物をとりに部屋を出て行った。

(ここで、アオイが寝起きしてるのか)
 そんなことをしみじみと考えていると、
「やらしい妄想とかしてんじゃないでしょうね!?」
と、永遠子がじっと冷ややかな目を重信に向けてそう言った。ぎょっとして重信は永遠子の顔をまじまじと見つめる。