「まあ入れよ」

 アオイに促されて二人はアオイ宅の玄関をくぐる。入り際、二台は停車できる駐車場所一台分に、トライアルバイクと整備用の道具が綺麗に整頓されて置かれているのが視界に入ってきた。決して大きいとは言えないが、小綺麗に手入れされたなかなか立派な家で、スッキリとした内装が印象的だ。
(えらくさっぱりしてるな……)
というのが、重信の正直な感想だ。
 けれど、重信がそう感じたのには理由があった。重信の家では、花好きの母が季節ごとに玄関先に活けたり、レースのついたカーテンを引っ掛けてみたりするので、玄関というものは、
飾りつけられたものというイメージを持っていたせいだ。
 それに対してアオイ宅は飾りらしいものは一切なく、機能重視。必要最低限の物が整頓されて配置されている、そんな感じだった。重信のうちにある、母親の買い漁ってきたヒールの靴なんかも玄関には散乱していないし、あるのは突っ掛け一足のみ。他の靴は棚の中へすっかり収納してしまっているのだろうか。

「テキトーに靴脱いで上がれよ」
 アオイの後にくっついて、二人はゆっくりとアオイ宅へ上がり込む。

 廊下、階段。そのどれもがあまりにすっきりと片付いている。物の数が極端に少ないのかもしれない。まるで、引っ越してきたばかりで、まだあまり物を置いていない家のようだ。
 重信派、どこかしら引っかかりを覚えながらも、片付いた家だな程度にしか考えていなかった。

「わーい、久しぶりのアオイの部屋だ!」
 すっかり元気を取り戻した永遠子が、はしゃぎ声をあげる。
「別になんもねぇ部屋だろ? なんでそんなに嬉しいのかさっぱりオレには理解できねぇよ」
呆れたようにアオイが肩を竦めた。