『ピンポーン』

 これで、岡田さん宅のインターホンを押した回数は占めて十三回。

「いないんじゃ……?」
 堪り兼ねて、重信がぼそりと呟いた。
「ああ!! なんかハギに言われると腹立つな!!」
(えっ、なんで!?)
 アオイの苛立った言葉に、グサリと胸を刺された重信が、密かにショックを受けている姿を見て、ざまあみろとでも言うように、永遠子がふふんと鼻で笑う。
(こ、こいつ……)
 いくら女子とは言え、永遠子のあからさまな嫌な態度に、重信はそろそろ堪忍袋の緒が引きちぎれてしまいそうだ。

「しゃぁねえ、ポストに入れとこうぜー」
 アオイは、岡田さん宅のポストにハンカチをそっと入れると、くるりと重信を振り返った。
「悪かったな、こんなとこまで付き合わせちまって」
 まさか、アオイの口からそんな言葉が出てこようとは、思ってもみなかった重信だったから、ぽかんとした顔でアオイを見下ろしている。
「何それ! 永遠子だって、ここまで一緒についてきたでしょ?」
 ぷっとむくれて、永遠子がアオイの腕を引っ張る。
「永遠子はオレん家目当てで押しかけてきただけだろ? ハギはそんなせこい考えしねぇで、良心だけでついてきてくれたんだぜ?」
 どうやらアオイも永遠子の考えは知っていたらしい。けれどここがアオイの優しいところだ。分かってはいても、最初に突っぱねたりしないで、練習の時間を割いてまでこうしてここに来たのだから。
 さっきまではイライラしていた重信も、それを知ってこっそり心の中でガッツポーズを決める。