「おい、こら永遠子。例の忘れもんは?」
 アオイが早く出せとばかりに、永遠子に手を差し出す。
「あっ、これなんだけど。ほら、常連の岡田さんの」
 永遠子が、ごそごそと鞄をあさって、取り出したのは紺色の男物のハンカチ。
「はあ? 岡田さんっつったら、オレん家のすぐ傍じゃねぇかよ」
 アオイが永遠子からそのハンカチを受け取る。
「うん。前にアオイ、岡田さん家すぐ傍だって話してたでしょ? だから、岡田さんの自宅も知ってるかと思って」
 しれっとそんなことを言ってのける永遠子。
「そりゃ岡田さん家なら知ってるよ。けどよ、次にオレがバイト入ってるときにでも渡してくれりゃ良かっただろ? わざわざ学校まで持って来なくても……」
 アオイからすれば、不満有り有りだろう。永遠子がハンカチをここまで持ってきたおかげで、バイクトライアルの練習時間が削られてしまうことになったのだから。
「ごめんね、でも、優木さんがこのハンカチは岡田さんの大切な物だって言ってたから、なるべく早く届けなきゃって思って……」
 流石に永遠子もアオイに少し申し訳なく思ったのか、しゅんと肩を落とした。
 そんな永遠子の姿を見て、アオイがふうと深い溜息をついた。
「----わぁったよ。今から岡田さん家、届けて来るよ」
 アオイが観念したように駅に向かって歩き始める。
「待って、アオイ! 永遠子も一緒に行く!!」
 永遠子がアオイの腕を慌てて引っ張った。
「は? なんでお前も来んの? だいたいお前ん家、引っ越したからオレん家とは反対方向だろ?」
 そう言いつつも、永遠子に掴まれた腕を振り払わないでいるのは、きっとアオイの優しさなのだろう。最初から、永遠子が一緒に行くと言い出すこと位、予測の範囲内だったのかもしれない。