(圭司? 絞める……?)
 全く話の掴めていない重信だったが、今はアオイを守るのが先決だ。表情を押し殺し、じっと三人を見下ろす。

「あのさ、もういい加減にしてくんねぇかな? 別にオレが誰とつるもうが、大寺さんたちに関係ねぇだろ?!」
 バンっと机を思いきり両手で叩きつけると、アオイは苛立った様子でそう叫んだ。
「そういう訳にもいかないだよ。圭司に、アオイに悪い虫がつかねぇように見張ってろって言われてんのよ、俺たち」
 大寺は表情を変えないまま、アオイにそう言った。島田と小柴は渋い顔をして顔を見合わせている。
「兄ちゃんのいうことなんか無視しといていいから。じゃ、オレも色々と忙しいんで」
 アオイが不機嫌そうに椅子から立ち上がると、重信も無言でその後を追う。

「いやいや、そういう訳には!」
 島田が慌ててアオイの前方に回り込み、アオイを止めに入る。
「圭司が怒ると、手つけらんねぇのはアオイもよく知ってるだろ?」
 大寺は言った。

「ハギ、行こうぜ」
 そんな大寺の声がまるで聞こえていないかのように、アオイは重信に声をかけて早足で教室を後にする。
「ちょいちょい、アオイち~~ん、待ちなって~~~」
 小柴がパタパタと二人の後を追おうとするが、
「峻! もういい、やめとけ」
と、大寺がそれを制した。
「けどさ~、連太~~~……」
 唇を尖らせながら、小柴がポケットに手を突っ込む。
「いいから。俺らももう戻るぞ」
 大寺の合図で、三人は揃って教室を出ていく。その瞬間、教室の張りつめた空気が一気に緩むのを、重信は背中で感じていた。
 今回は案外すんなりと引き下がってくれたこの三人だったが、このやり取りが、この後の混乱の幕開けになろうとは、重信自身、まだ考えもしていなかった。
 
 美雪と恵太は、教室から出て行くアオイと重信の後姿を、心配そうに見つめていた。