アオイ断ちを開始してから五日目。とうとう重信に禁断症状が現れ始めていた。
 ぼーっとして無意識のうちに、帰宅方面とは真逆の電車に乗り、アオイが通うミズキスポーツの方に向けて歩いてきてしまっていた。
「あれ……。なんで俺……」
 やっと正気に戻った重信は、ここはどこだと面持ちで、周囲をあたふたと見回した。
(そっか、俺、ぼーっとしてミズキスポーツに……)
 見覚えのある風景。ここは、ミズキスポーツへ向かう道中に違いなかった。
 アオイが女と分かって、アオイと無闇に関わるのをやめようと決心した筈だったが、どんなに頭からアオイを閉め出そうとしても、気付けばアオイのことばかり考えている自分がいた。
 艶やかで真っ黒な黒髪。少し気の強そうな目。そして何より印象的なのは、笑ったときに垣間見える八重歯。

(あれが女子とか、反則だぞ)
 ミズキスポーツに実際に行ってしまう前にと、重信は途中にある公園に立ち寄った。
 公園の真ん中には噴水。けれど、今は水は出ていない。すっかり秋も深まり、肌寒い季節になってきた。木々は赤や黄に色づき始めている。
 重信は、ブレザーの上を少しさすった。

(もうすぐ冬か……)

 空は秋晴れ。けれど、重信の心は沈んだまま。
 あれから恵太とは話していない。恵太は恵太なりに重信を気遣って、今はそっとしておこうと決めたらしい。きっと彼のことだ、重信のことを、物凄く心配しているに違いない。

「失恋…か……」
 一人腰かけたベンチで、重信がそう呟いた。
 アオイが男だったら良かったのに、なんて考える。いや、例えアオイが男だったとしても、決して叶うことのない恋。”ゲイ”である重信の片想いは、叶うことはまずない。これからも半永久的に……。
 じっと自らの足を見つめながら、重信は情けなくて泣きたくなった。
(違うだろ。アオイが悪いんじゃない、俺が変なんだ。俺がゲイじゃなけりゃ、そもそもこんなに悩む必要なんてなかったのに……!)
 頭を抱え込み、重信はベンチで蹲った。もういっそ、固い殻の中に閉じ籠ってしまおうか、なんて考えが頭を過ぎる。