「恵太、だから違うって……」
「違くないだろ!」
 驚いた顔して、重信は恵太を見つめた。

「俺はただ……、アオイとハギが、前みたいに戻って欲しいだけなんだ。だから……」
 重信はゆっくりと身体を起こした。
「俺と美雪は、今回何も聞かなかったことにするよ」

「……は?」

 真剣な面持ちで、恵太がそんなことを口にしたから、重信は思わず気の抜けたような声を出してしまった。

「いや、だからさ。俺と美雪は、ハギから何も聞いてないことにしたから! そういうことだから、ハギは何も気にせず今まで通りアオイと過ごせばいいから」
 がしっと肩をつかまれ、恵太にメチャメチャな説得をされる重信。
「いや、そんな問題じゃなくてだな。今回は俺自身の問題だから……」
 心底心配してくれている恵太に申し訳なく思う気持ちはあるものの、重信はそう簡単に決心
を緩める訳にはいかなかった。なぜなら、自分が”ゲイ”で、アオイのことを男子として好きになってしまったせいだ。アオイが女子と分かった今、女子であるアオイと、付き合っている訳でもないのに四六時中一緒にいる訳にはいかない。
「はあ……」
 大きな溜息をつくと、重信はがっくりと肩を落とした。
(よく考えたら、俺、アオイに対してとんでもないことしてたよな……。頭撫でたり、口に食い物突っ込んだり……。知らなかったとは言え、流石にやばいよな……)
 ますます落ち込む重信に、恵太が言った。
「ハギ……。言いたくないなら無理には聞かないけどさ、話したくなったら、いつでも声掛けて」

 静かに席を立つと、恵太は隣の椅子の上においていた学生鞄を手に取った。
「おう、ありがとな、恵太」
 重信は少し淋しそうな恵太に向けて、小さく笑った。

「それと……。自分に正直になれよ、ハギ」
 ポンと肩を優しく叩くと、恵太は図書室を後にした。

(いつか、お前に全てを打ち明けるよ、恵太)

 重信は、深く息を吸い込み、図書室の古くなった白い天井をゆっくりと見上げた。