その気持ちと反面に、重信はアオイの牛乳とカルシウムたっぷりビスケットのことが気になって仕方がなかった。考えるのをやめようとは思うけれど、なんせこのところ毎日アオイに食べさせるのが日課だったもんだから、無意識のうちに飲みきりサイズの牛乳パックとビスケットをいつの間にか握り締めているのだった。

(なーーっ!? いつの間にこんな物を!? というか、こんなもん買って、俺は一体どうする気だ!? アオイにはもう会わないって決めたんだぞ!?)
 なんて考えながら、気付いたときにはふらふらとアオイの教室へと足が向いてしまうのだった。

(ダメだダメだ!! アオイは女子なんだ! 俺なんかが会いに行ったところで、良いことなんて全然無いんだぞ!!)
 悲しいかな、とうとうアオイの教室の前まで来てしまった重信は、不審者よろしく教室の前をうろうろと歩き回っていた。
(そうだ! 持って来てしまったものは仕方無い! 要するに、アオイに会わなければなんの問題も無い訳だ)
 という、全く訳のわからん理屈を編み出した重信は、意を決して近くを通りすがった見知らぬ男子生徒に声を掛けた。
「塚本アオイ、教室にいる?」
「アオイは今いないみたいだけど」
 教室の中を確かめた男子生徒の答えを聞き、今がチャンスとばかりに、重信は教室に忍び込んだ。

「おい、ハギ。何こそこそしてんの?」
 恵太が、不審な動きをする重信に気づき、声を掛けてくる。しかし、重信の方はというと、いつアオイが教室に戻ってくるかと内心びくびくしている為、恵太のそんな質問にもスルーして、そそくさとアオイの机に牛乳パックとビスケットを置くだけ置いて、はたまたこっそり退陣しようとしていた。と、その時! 教室に戻って来たアオイとばったりと目が合ってしまった。

(う……!)



ばっとあからさまに目を逸らし、物凄い勢いでアオイの入ってきたドアとは反対のドアへと猛ダッシュする。

「お、おい!!」
 後ろでアオイの呼び止める声が聞こえたが、重信は聞こえないふりを決め込んで、走りに走る。
(俺は、今後一切アオイと関わらないって決めたんだーー!!!)
 気を緩めるとすぐにでも投げ出しそうになる決心を、重信は必死になって守ろうと躍起になっていた。