(いつもなら絶対一緒にいないような人たち……??)

 ピクリと重信の耳がそこだけ妙にダンボになる。が、アオイと離れると決めた以上、自分から恵太たちにあれこれを情報を引き出すことにも気が引けて、重信は気になる気持ちを抑え、静かに三島高校までの道のりを歩く。

「あっ、噂をすれば!」
 恵太が前方に小柄を見つけて右手を挙げる。今にも声を掛ける寸前の動きだ。
(アオイ!!)
 咄嗟に、重信は恵太の口を手あててそれを阻止すると、重信の手の中で、恵太のモゴモゴという声がこもって消えた。
「むむふぁんふぁふぉ!?」
 恵太が、口を押さえられながらも、何か重信に向けて抗議している。
自分のしてしまったことに気づき、重信は慌てて恵太の口から手を離した。
「なにすんだよ、いきなり!」
「……悪い……」
 恵太の不満いっぱいの言葉に、重信は肩を落とした。が、その騒ぎに気付いたのか、アオイがなんとなく後方を振り返ってしまった。

(あっ……!)

 しまったと思ったときには、時すでに遅く、
「うっす。ハギ、熱下がったの?」
 アオイが眠そうな目をこすりながら重信にそう声をかけてきた。
 が、反射的に身を翻し、重信は電柱の影に隠れた。勿論、百八十五もある彼の身体がそこにちゃんと隠れきる筈もないが。

(お、俺、何してんだ!? 今、おもいっきりシカトして逃げたよな!?)

 自らの行動に頭を抱え込みながら、重信は電柱の影に蹲る。
「おい、お前まだどっか悪いんじゃね?」
 気付いた時には、アオイが重信のすぐ目の前にいて、屈んだ重信を見下ろしていた。
「うわ!?」
 驚きのあまり、重信は大声で叫び、ズザザーっと数メートル横に飛び退いた。
 びっくりした顔でそれを見つめるアオイ。ぽかんとした表情を浮かべる恵太と美雪。

「どこも悪くない」
 アオイから目線を逸らし、重信はぶっきら棒にそう答えた。
 アオイが何か言おうとしたが、重信はそれよりも前に逃げるようにして、さっさとその場を立ち去った。それも小走りで……。美雪と恵太もそこにほっぽらかしたままで。

(アオイは女なんだ。無闇に男の俺が話さない方がいい。アオイの恋路を邪魔する気はさらさらないんだ。昨日も決心しただろ!?)

 自身に言い聞かせながら、重信はとにかく走った。いつの間に自分のクラスに着いていたのかも気付かない程夢中で。