衝撃の事実を知ってしまった重信。その後、どうやって自宅へ戻ってきたのかも覚えていない。

(アオイが女……)

 まるで抜け殻のようになってしまっている重信だったが、この日初めて、仮病というもので学校を休んだ。子どもの頃から、丈夫が取り柄で病気なんてしたこともなかったというのに。
 ベッドに潜り込んだまま目にクマをつくって、全く起き出してこない重信に、完全に体調でも崩したんだろうと家族は勘違いしたらしい。そのおかげで、特に煩く口出しされることもなく、重信はこうして静かにただ一人、布団の中という訳だ。

(俺は男のアオイを好きになったのに、アオイは本当は女で……)
 正真正銘のゲイである筈の重信が、初めて女子に恋をしてしまった。このことは、重信自身をひどく混乱させていた。
(俺はひょっとして、ゲイじゃなくてノーマルなのか?)
 ふとそんな考えまで頭を過ぎる始末。
(い、いやいやいや……! 俺は確かにゲイの筈だ。事実、五年間も恵太が好きだっただろ!?)
 思春期に入ると同時、いつもすぐそばにいる恵太の、さらさらな髪や色素の薄い手にどれだけドキドキしていたか。健全な男子なら、一度は見たいと思うAVも、重信には全く興味の外だった。女子の水着なんかよりも、よっぽど恵太の海パン姿にドギマギしたものだ。
 よって、重信は紛れもなくゲイ。まさしく男子相手を恋愛対象として見てしまう、その種類の人間に他ならない。そう、その筈だった。
(じゃあ、俺は一体何なんだよ!? 女のアオイを好きになっちまうなんて、俺、どうかしてんのか!?)
 重信は、ついには自分という人間が、一体何者なのかさえ分からなくなってきてしまった。
 やっと確立されてきた、萩本 重信(はぎもと しげのぶ)という人間像が、ここに来てすっかり崩れつつあった。
と、突然ベッドのすぐ脇にある机の上で、スマホが鳴った。アラームではなく、これはメールの着信音だ。