今すぐ誰もいない場所に行きたい……。整理しきれない思いが、溢れ出す。ただ、一人になりたかった。
「大丈夫か、ハギ?」
 ふらふらとホームの柱から離れた重信に、恵太が心配そうに声を掛ける。
「悪い、ちょっと気分悪いから先帰ってて」
「へ? んな訳にはいかないよ。お茶かなんか買ってこようか?」
 恵太がホームを見回して、自動販売機を探す。
「や、大丈夫。今朝から腹の調子が悪くて。便所行って帰るから、お前ら先帰って」
 顔色の真っ青な重信を心配して、なかなかそこを離れようとしない恵太と美雪。

「頼むから先帰って」

 切羽詰まったような重信の訴えに、とうとう二人も折れた。
 心配そうに重信を振り返ってはいたが、こちらのホームにも電車が到着し、渋々それに乗って帰っていった。

(そうか、だからこの前、アオイの兄貴っつう人も、”妹”って言ってたのか……)
 今頃になって、あれが聞き間違いではなかったことに気付いたという訳だ。
 ホームにいた人たちが、みんな電車に乗り込んでしまったせいで、ホームにたった一人残った重信は、設置されたベンチにゆっくりと腰を下ろした。

「まじかよ……」

 重信の消え入りそうな声が、ホームに響いて消えていった。