「ほんと、恵ちゃんったら、わたしのことそっちのけで、いっつもハギ、ハギって言ってるんだよ? 萩本くんへの友情は本気らしいよ」
 美雪が苦笑しながらそう話す。
「こ、こら美雪! 何勝手にバラしてんだよ!」
「だって、ホントのことだもん」
 重信は、この時初めて、恵太がどれだけ自分のことを考えてくれていたのかを認識したのだった。恵太は恵太なりに、重信を大切な存在として認めてくれていたようだ。

「ま、そういうこと。だから、ハギに好きな人ができて、俺はすげえ嬉しいし、ちょっとほっとした訳」
 向かいのホームで、変わらず自転車雑誌に視線を落としているアオイに目をやりながら、恵太は言った。
「美雪と付き合い始めて、ハギとの時間も大事にしたいって思う反面、どうしても俺と美雪が一緒にいる間、ハギに悪いっていう気持ちもあって、正直悩んでた」
 これは、恵太が初めて打ち明けた、正直な気持ちだった。
(恵太……)
「でも、ハギがアオイと一緒に過ごし始めて、俺、本気で良かったって思ったんだ」
 色素の薄い睫毛を伏せ、恵太は照れ臭そうに話す。


「確かに、アオイはちょっと変わってるし、普通の女子とは違うけど、すごいいい奴だし、俺も美雪もアオイのこと好きだし、な? 美雪」
 美雪は、うんうんと頷きながら、重信の顔を見上げてくる。
 丁度、向かいのホームに電車が到着するのが見えた。
「わたしたち、萩本君とアオイちゃんがうまくいくように、全面的に応援するよ!」
 キラキラとした目で見つめてくる美雪だったが、重信は聞いてはいけない言葉を耳にしてしまったことで、すでに新たなるパニック状態へと、足を踏み入れかけていた。

「ふ、普通の女子とは違う……?」

 茫然として、重信は恵太の言った言葉を反復した。

「うん? まあ、アオイは女子らしくない女子ではあるけど、すごい女子だよ。バイクトライアルもすごいしな!」
 もう一度はっきりと言い切られて、重信の顔から一気に血の気が引いていった。
(じょ、女子らしくない女子? アオイが……? アオイが男じゃない……?)

 向かいのホームからゆっくりと電車が発車してゆく。
 重信は、指の先がだんだん冷たくなっていくのを感じた。

「あれ、萩本君、なんか顔色悪くない?」
 美雪がそう呟いたとき、重信はほぼ周囲の景色が見えない程のショック状態に陥っていた。

(アオイが女……?)