「こらこら、わたしに助けを求めるんじゃない。そもそも、恵ちゃんが余計なこと言ったんだよ? ちゃんと責任とりなさい」
 美雪に叱責されて、恵太はまた気まずそうに頭を掻いた。

「ごめん。俺、てっきりお前らは既に付き合ってるもんだと……。だってさ、ハギって普段自分から自分のこと話さないだろ? だから、話してないだけかなって」
 重信の頭の中はパニックだった。
 今まで、誰にも自分が”ゲイ”だということを話したことはないし、特に恵太には勘付かれないように気を配ってきたつもりだ。なのに、永遠子のみならず、恵太と美雪にまで知られていたなんて……。
「つ、付き合うって、恵太、お前何言ってるか分かって言ってんのか?」
 男同士が付き合うだなんて、そんな簡単な話ではない。一般的にはタブー視される傾向にある訳で、それ相応のリスクと苦難を覚悟の上でないとできるのもではない筈だ。

「だって、ハギはアオイが好きなんだろ? 好きなら付き合うのもおかしなことじゃないじゃん」
 確かに、恵太の言うことも一理ある。が、それは、世間一般の男女に通じる理屈であって、男同士ではそうはいかない。
「いや、だから、それは」
 もごもごと口籠る重信に、恵太が詰め寄る。
「で、どうなの? アオイのこと好きなの? 好きじゃないの?」
 どういう訳か、隣にいる美雪まで、目をキラキラさせて詰め寄ってきている。
「す、好きとかそういうんじゃなくてだな……」
「へえ。じゃあ、嫌いなんだ?」
 どんどん後方へ追い詰められていく重信。
「き、嫌いって訳でも……」
 とうとうホームの柱まで追い詰められてしまった重信は、ごくりと唾を飲み込む。
「じゃあなんだよ。ハッキリしろよ。好きなの? 嫌いなの?」
 向かいのホームに、一人イヤホンをしながら電車を待つアオイの姿が目に飛び込んでくる。
 アオイは、こんな状況に追いやられている重信に全く気付いた様子もなく、自転車雑誌に視線を落としている。