「じゃーなー」
 重信たちの通う三島高校の最寄りは、この三島駅。下校時はいつもこの駅でアオイと別れる。アオイは、重信や恵太とは逆方面行きの電車に乗って、ミズキスポーツへと向かうのが日常だった。
「おう、また明日」
 重信が右手を挙げるとアオイは軽やかに反対側のホームを駆け下りて行く。
 ここからは、少しだけ気まずい三人行動となる訳だ。恵太と重信は自宅が徒歩五分圏内のご近所で、共に下車駅は三島駅から五つ目の天照寺駅(てんしょうじえき)。対して美雪は更に一駅向こうの孤鳥駅(ことえき)というところだった。
 当然のことながら、この下校途中、美雪と恵太は二人手を繋いで電車に乗ることになり、どういう流れか、そのすぐ隣に重信が付属品のごとくぼうっと突っ立っている、っというのも日常だった。
 駅のホームには、同じ高校の制服の生徒もちらほら立っていて、帰りの電車を待っている。
 重信は、美雪と恵太の繋がれた手を見つめながら、ふと微笑ましく思っている自分がどこかにいることに気付く。
(前は、あんなに嫌だったのに)
 それでも、二人を邪魔しているのではないか、という気まずい気持ちは変わらずあって、やっぱり下校時のこの時間は、重信にとって居心地がいいとは言えなかった。

「ん? 俺の顔になんかついてる?」
 恵太が重信の視線に気づき、自らの顔をペタペタと触って確かめる。
「そうじゃない。二人とも仲いいなって」
 そう言った重信に、美雪と恵太が顔を見合わせて吹き出した。
「なに?」
 不可思議な表情を浮かべて、重信は二人の顔を交互に見る。
「仲いいのはハギとアオイもだろ? 人のこと言えた立場か?」
 恵太が呆れたように肩を竦めた。
「なにが?」
冗談でも言っているのかと思い、重信は恵太と同じように肩を竦めて見せた。

「……って、お前ら付き合ってんじゃないの?」
 驚いた顔で恵太が重信をまじまじと見つめた。

「誰と誰が?」
 流石に話の流れが読めなくなってきた重信は、真面目な顔で恵太を見つめ返した。

「そ、そりゃ、ハギとアオイに決まってるだろ?」

「……」

 一瞬にして石のように固まってしまった重信。
 不思議そうに小首を傾げている美雪。
 ぽかんと口を開けている恵太。

「恵ちゃん、ひょっとして二人は付き合ってる訳じゃないんじゃない?」
 美雪が気まずそうに恵太の服の袖を引っ張った。

「……嘘だろ? マジで?」

 恵太が焦ったように美雪の顔を振り返った。