どんなに頑張っても、兄との差は未だ縮まらない。いつの間にか、ミズキスポーツのバイクトライアル部門のエースともてはやされるようになった今でも。
 まだ世界を知らないアオイだったが、部長にまで上り詰めてしまった兄の実力だけは分かっていた。圭司のテクニックは、おそらく世界に手が届く寸前にまで到達しているに違いない。否、ひょっとすると、既に世界で通用する選手にまで成長しているかもしれない。 
 たからこそ、アオイはこの日の競技の結果に決して満足することはしない。例え女子部門での優勝を手に入れたとしても。

「アオイちゃん、いつもながらにすごかったね!」
 同じクラブチームのメンバーが、競技を終えたアオイの近くに駆け寄ってくる。エースの名に恥じない素晴らしいテクニックだったと、誰もが賞賛していた。
 が、アオイはここに見あたらない人物をキョロキョロと探す。
 ホテルの同室に宿泊していた筈の重信の姿が今朝になって忽然と消えていたときには少しばかり驚いた。が、スマホに届いていた違和感有りまくりのメールに、取り敢えずほっとしたものだ。後で会場に向かうと書いてあったので、言われた通りに先に会場に来てみたものの、アオイの出番が近づいても、一向に来ている気配のないから、どうしたものかと心配したが、出番直前に重信からメールが届いた。そして、会場の隅に確かに彼らしき人物も確認していた。