明朝、熱を持って痛みだした顔の傷に目が覚める。昨晩はほとんど痛みも感じなかったのに、不思議なものだ。
 重信は、部屋に戻っていないことに気付き、心配することのないようにと、痛みを堪えてアオイ宛てにメールを送信する。

”朝散歩しようと思ってホテルを出たら、たまたま昔の知り合いに会った。少し話してからホテルに戻る。アオイは準備あるだろうから、先に会場に行っててくれ。出番までには俺も間に合うようにするから”

 明らかにとってつけたような嘘っぽい内容なのは分かっていた。けれど、この腫れ上がった顔でアオイに会えば、きっとひどく動揺させてしまう。そうなれば、競技に少なからず差し支えるだろう。
 重信は、深い溜息をつき、漫画喫茶のトイレへと向かう。
「うわ……、ひどいな」
 トイレの鏡に映った重信の顔は、あまりに無残なものだった。前に殴られたところから更に何発も殴られたことで、すっかり頬が腫れ上がり、元の形が分からない程に変形していた。左瞼は血が溜まっているのか、左目のほとんどが閉じてしまっている。自覚はあったが、鼻血も出ていたらしく、顔面には赤黒い血液が固まって、あちこりにこびり付いていた。
 取り敢えず痛みに耐えながらも、冷水で顔を洗うと、重信はもう一度濡れた自身の顔を鏡越しに見つめた。
(大寺さんの怒りよう、尋常じゃなかった。アオイの兄貴の幼馴染みとか言ってたけど、本当にそれだけか……? 他に何かあるんじゃないのか……?)
 また新たな謎が浮上する。