「今、この状況は完全にあなたが不利な状況にある。そして俺がその包丁を奪い、あなたを刺しても・・・正当防衛が成り立つでしょうね。その証言は全てカズがしてくれますから。」


「俊哉っ?!」


俊哉の口から出た、ありえない言葉。


「な、何言ってるの?俊哉くん。」


恵梨香さんが一歩ずつ、後ずさる。


包丁の刃先は、必然的に俊哉へと向けられる。


何・・・?


何をしようとしてるの、俊哉・・・?


「ごめんな。」


「え━━━━」


「ごめんな」と同時に、あたしの左手から、俊哉の体温が離れていく。


それからの全てが、あたしにはスローモーションに見えた。


繋いだ手が離れて、ようやく気がつく。


俊哉は・・・


俊哉はこの状況をどんな方法を用いてでも、止めようとしているんだ。


例え、自分が殺人犯になったとしても━━━━




・・・ダメだよ。


絶対にダメだ。そんなの・・・


だって、さっき言ったよね。「説得させる」って。「絶対帰る」って。「ずっと一緒にいたい」って。


こんなの、説得じゃないよ。


「ダメ━━━━っ!!!」


あたしは思いのままに、駆け出していた。


「カズっ・・・」


俊哉があたしを呼ぶ声は、ドスっという鈍い音にかき消された。