そんな行き場のない思いを、足元に転がっていた小石にぶつけてみた。


蹴った小石は思いのほか遠くへ転がった。



「……むなしー。」



誰に聞かせるわけでもなく、空につぶやく。



空を仰いだとき、後ろから駆けてくる靴音。


「……?」


こんな夜にトレーニングか?

……もしかして、恋人が追いかけてくれたんだろうか?



やがて暗闇にその姿が浮かんできた。



――なんだ。違う人か……。


違うシルエットに肩を落として、再び歩みを始めた瞬間――


「待って!!」



呼び止める声。

周りに人はいない。

つまり彼が呼び止めたのは、僕だ。



怪訝に思って足を止めた僕に、彼はすぐ追いついた。



「なんですか?」


月を背にした彼の顔がよく見えない。



彼は息を切らしたまま答えず、いきなり僕の手を掴むと、そのまま引き寄せられた。



「――は?ちょっ…」
「見つけた。」
「何するんだよ!?離せよ!!」


暴れる僕などお構いなしに、抱き締めてくる腕の力が強くなる。



「やっと見つけた。暁(アキ)」
「――!どうして僕の名前…?」
「中原 暁(ナカハラ アキ)。君のことなら何でも知ってるよ。」
「え……?」
「修平(シュウヘイ)。唐沢 修平(カラサワ シュウヘイ)、それが俺の名前。」