かぐや皇子は地球で十五歳。

 劇場を出るとアメリはグッズ売り場へ突っ込んでいき、放置された俺達は仕方なく館内ソファでヲタク保護者を待った。

「湯浅くんは、いーの?今ならアメリ興奮状態だから何でも買ってもらえるよ?」
「俺はいいよ。人混みで傷突っつかれたら困るし。」

 近いし。あー……ちょっと期待してたけど予想以上だ。あたってる。ふくらはぎ当たってる……!
 踏ん張れ、俺。今はそれどころじゃない。今日話すって決めたじゃないかっ。

「ゆかり、栗林のことだけど───」
「慶子のこと?よかった、私も湯浅くんに聞こうと思ってたんだ!」
「あ?あぁ、そう?」
「昨日坂城くんに説得されたの。何か気に入らないことあるなら、お互い言い合って、早く仲直りするべきだって。」
「へ、へぇ………坂城にね。」

 なんだ、あいつやっぱりイイヤツだな。

「湯浅くんは、蘭昌石を渡してきた慶子をどう思う?」
「そのことなんだけどさ、この1ヶ月様子を見てきたけど栗林は怪しくないよ、石も偶然だと思う。使者でもないし、友達として付き合い続けて大丈夫。俺が保証するよ。」
「本当!?嬉しい…!湯浅くんがそう言ってくれるなら安心だ!疑ったこと謝らなくちゃ、さっそく今日帰ったら電話してみるね?」

 ね?で俺の腕にしがみつき、必殺上目遣いを繰り出した。めちゃくちゃ可愛いー。写メ撮って保存したいーすべすべー温かいーイイニオイー。

「ゆ、ゆかり、なんか何時もより近いよね。気のせいじゃないよね、これ。」
「いや?」
「い、いやじゃ……ないけどさ、こういう態度って好きな男だけにするべきなんじゃないかな。ほら、他のヤツ……坂城とかにやったら、すぐ勘違いしちゃうだろ。」

 ナイスプレー、俺。
 傷付けず一線置くこの心遣い?男の優しさ?さらに坂城との距離を問える自然な台詞、完璧だ!

「私、湯浅くんのこと好きだもん。」
「─────え?」

 白繭肌にほんのり朱が染まった。俺の腕に絡まった小さな手に「ぎゅっ」と力が籠る。

「あ、でもね?湯浅くんとどーにかなりたい訳じゃないから。むしろ、どーにもなりたくないから。」
「────えぇ?」

 おぉ、また脳ミソシェイクされちゃってるぞ、俺。どうした、ゆかり。ビッチモード始動か。俺は惑わされないぞ。

「お?お、お待たせ!グッズ沢山買ったら、原作者の展示会の割引券もらっちゃった!私、お店戻るから二人で行ってきたら?」

 こ、この状況下で二人で!?
 無理無理、AからCまで特急券発行されちゃうよ!

「えー…?二人だとデートになっちゃう。湯浅くん、初デートは好きな娘と行きたいでしょ?」
「え、べ、別に俺は気にしな────」
「それにこの展示会、明日坂城くんと二人で観に行く約束してるから。ごめんね?」

 満面の笑み。背後でアメリが笑いを堪えすぎて目に涙を溜めている。
 えーと、整理しようか。
 二人だと、デートなんだよな。
 初デートは好きな人と行くんだよな。
 
「へ、へぇ。じゃあ、ゆかりの初デートは明日ってこと?」
「………あ、そうか!そうなるのか!」

 認めちゃったよ……!?
 えーと、初デートは好きな人と行くんだよな?ゆかりは坂城が好きってこと?
 じゃあ、さっきの湯浅くんのこと好きだもん。は何だったんだ?
 本命じゃないけど、くっついていたい程度には好きってこと?

「湯浅くん、帰ろ?」

 近い。アメリが歯噛みするほど近い……!すべすべー温かいーイイニオイー。



 恐るべし……ビッチ…──────────