─────────ゆかりへ

 暇だ。ゆかりって世話の焼ける娘だったのね、ゆかりがいなくなってからお母さん超暇。もう暇すぎて溜まってた海外ドラマ見終わっちゃった。ビックリ。暇だからゆかりにお手紙でも書いておくわ。こんな母親でも急にいなくなったら不安になるだろうし。
 では、本題。
 お母さんとお父さんは忌み子とは相容れない天敵、使者。詳しくはタブレットの中を読んでね。犬とお猿さんじゃ一緒にいられないわ、ゆかりが15歳になったらお別れしなくちゃならないって、お父さんと決め事をしていたの。
 でもね、約束してたのにお母さん全然子離れできなくてさぁ、無理だなって、このままでもいいよねって最近まで考えてたのよ。どうにかなるんじゃないかって。ほら、お母さんてどうしようもない楽観主義者でしょ。
 でもちゃんと、ゆかりには白馬の王子様が現れた。晃くんがここから連れ出してくれた。子離れするなら今しかないって思ったの。だって、ゆかりの顔みたらまた渋っちゃうもの。
 だからちょっと早めに、お母さんは出ていきます。計画性のないお母さんでごめん。ゆかりはお母さん大好きだもんね、傷付けちゃうね。ごめんね。
 ゆかり、晃くんや忌み民の人達を責めちゃ駄目よ。
 恨むならお母さんを恨んで。お母さんはゆかりを守れない。
 晃くんは必ずあなたを守ってくれるわ。彼と共に生きるのよ。

 今更かしこまって言うことじゃないけど、お母さんもゆかりが大好きよ!幸せに生きてください。
 さようなら。

 追伸─────
 あんた、授業料払ってるんだから学校は休まず行きなさいよ!





「さて……行きますか。」

 仏壇の虚空に置かれていた母の薄っぺらい手紙を読み終え一時間。手紙の下に土台となっていたタブレットを鞄に入れると、泣き疲れた重い身体を引き摺りを我が家を出た。
 5月とは思えない強い陽射しの中、汗だくになって高台への階段を上る。上りきった先に見える白いフレンチカフェ。
 帰ったらすぐにシャワーを浴びよう。身も心もサッパリしたら雅宗さんに母のことを伝える。そしてタブレットを読んで、わからない部分はちゃんとみんなに聞くんだ。全部知って、ちゃんと理解して、前に進もう。
 もしかしたら柏木家には一生お世話になるかもしれない。これからはもっと精進して働かなければ。放課後と休日はカフェを手伝って、そうだ朝のお洗濯くらいなら毎日出来るかもしれない。

「よし、よし、頑張れ。眞鍋ゆかり。」

 この扉を閉めたら最後、二度と泣かない。
 私にはもう、泣く場所はないもの。