あの日から、一度も晃に会っていない。
 私の身に起こる眠り姫病は、覚醒前に起こる催眠現象らしい。どうやらパートナーである晃が睡眠スイッチのようで、現に晃に会わなくなってから一度も睡魔に襲われていない。
 眠れば3時間頑固として起きないのだ、その間死者が現れたら非常にまずい。放課後お見舞いなどとんでもない、会うのなら午前中に限定される。つまりは祝日の金曜日の朝まで私には面会が許されないのだ。

(う…───────会いたい。)

 慶子と坂城くんに挟まれようが、アメリと雅宗さんに付きまとわれようが、何処かぽっかりと心寂しい。ふわふわと柔らかな栗毛を揺らし前を歩く背中が妙に恋しい。

「恋しいっていうか………それ、恋でしょ。」
「ぶ─────────!」

 昼休み、いつもの図書室地下。ゆかり様は口から牛乳噴射し、茶色い机に雪を降らせた。坂城くんは焼きそばパンを抱き締め後ずさり、慶子が弁当箱を持って万歳を決め込んでいる。二人の(食べ物への)反射神経神業!

「ち、ちょっと寂しいだけだもん。寝癖ヘアの行く末が気になるだけだもん。」
「あの男、許せない……!身体ばかりか心までも…!」
「いや、身体どうにもなってないからね!?」
「どうにもなってないの!?すげぇな晃、ゆかりちゃん部屋に上げといて何もしないなんて……俺だったら!………っだ────────!!」
「足は避けてやった。有り難く思え。」
「げぃこぢゃん……ヘッドもわりと重要……。」

 あははー?坂城くん、おでこ真っ赤~。慶子ってば怪力~。なんてやり取りしながら、私の心臓は豪速急に速まっていった。

(こ、恋……。)

 恋の原理ってなんですか。
 会いたくなったら恋なんですか。

 お母さん、教えてください。