表情は笑ってるように見える。



けど、どこか作ったような笑い方。



俺にはよくはわからないけど今にも泣き出してしまいそうな悲しい顔をしてる。



「凪柚…?」



声を掛けると凪柚は俯いて、閉じていた口を開いた。



「蒼生くんは…人魚って信じる?」



俺の聞き間違いじゃない。



凪柚は今、間違いなく“人魚”と言った。



俺はどんな顔をしてるだろう…。



たぶん、歪んだ顔してる。



「やっぱ普通は信じてないよね」



凪柚は窓のほうを見て小さく言った。



カーテンは相変わらず揺れている。



“人魚”って…童話とか絵本の人魚姫のことだよな…?



ほかに思い付かないし。



「私のおばあ様がね…」



突然凪柚が話し始めたことに驚いて、俺は椅子からずり落ちそうになる。



そんな俺を見て、凪柚はクスクスと笑った。



俺、かっこわりぃ…。



俺は椅子に座り直して、凪柚の言葉を待つ。



外から聞こえる蝉の鳴き声が、静かな保健室に響いた。



ダルかったハズの体は、さっきまでが嘘のように楽になってる。



プールで濡れた髪もほとんど乾いていた。