俺が見てたことに気付いていたかどうかはわかんないけど、



すれ違う直前、小柄な彼女はニコリと、俺に微笑みかける。



それに少しドキリとして、しばらく彼女の背中だけを見てた。



さっきは叶えたい願いなんてないって思ってたけど、



たった今、願い事が出来た。



“また彼女に会いたい”



心の中でそう思いながら、



またゆっくりと家への帰り道を歩く。




家に着いて、ドアを開けるとすぐに、ニャーと甘えた鳴き声で飼い猫のピーチが俺の足に擦り寄ってくる。



「ピーチ、俺疲れてんの」



猫に言葉がわかるはずもなく、



靴を脱ぐ俺の足元を、ピーチは相変わらずうろちょろしてる。



階段を上って自分の部屋に入ると、ヴァイオリンケースを置いてベッドに飛び込んだ。



頭の中は今日見た彼女のことでいっぱいになってる。



今までこんなことあったか…?



そんなことを考えてたら急に眠くなってきて、



あとちょっとで夢の世界に突入出来そう。



だけど、バタバタと階段を上がってくる音が聞こえて、俺はムクリと体を起こした。