「わたしの、名前は」


自分の名前を思い出せないばかりじゃない。
今まで生きてきたすべての記憶を失っていた。

家族の名前も、どこに住んでいたかも、自分の年さえも。




「一時的なものだろう」

「治るのか?」

「いや、わからない。ただ、ひとつ思い出せば次々に思い出すかもしれない」

「………」

「どうする?警察に任せるか?」

「………」



警察?

びくっ

少女が困惑した瞳で俺を見上げ、首をふるふると横に振って嫌だと意思表示をした。


「あんたの家族が探してるかもしれねえぞ。警察に行ったほうがいいんじゃねえか?」

「い、や」

「ここにいてもどうする。俺は連れて帰れねえぞ」


冷たいと思われても連れては帰れねえ。


「成田、おまえのとこで預かれ」

「俺のどころか?無茶苦茶言うな!」


成田は大袈裟なため息をついた。