狭い路地裏に入った時、
そこには数人の少年……というか
あからさまに不良な少年がいた。
彼らは私の存在に気がつくと、
こちらをぎろりと睨み付けた。
だけど不良少年たちは、
私を睨み付けるだけで去っていった。
あれは一体何だったのだろう。
……。
ふと、真後ろに気配を感じた。
ゆっくり後ろを振り向くと、
そこには背の高い少年が
私を見下ろしていた。
白いフードつきの上着を羽織って
紺色の傘を持っていた。
私はすぐさまその少年から身を離し、
距離をはかりながら深く頭を下げた。
「すみませんでしたッ」
何をしたというわけでもない。
だけど怖いから、ただ謝った。
大体の日本人ならすぐに謝るだろう。
やがて私の視界に少年の靴が見える。
ああ、殴られるんだと覚悟して
目を閉じたその時。
急に私の体に当たる雨の感覚が消えた。
うっすらと目を開けると、
周りはまだ降っていた。
少年は私を傘の中に入れてくれたのだ。
「怖がらないで」
赤い髪、傷を負った首。
典型的な不良の姿なのに、
何故かこの少年の口調は
凄く柔らかくて、優しかった。
「この傘、やる」
怖くて顔をよく見られなかったけれど、
彼だけは優しい不良な気がした。
「ありがとうございます……
でも貴方が濡れてしまいますから
やっぱりいいです」
少年は多分、困った顔をしただろう。
頭はもう上げているが、
それでもまだ怖さはあり、
私は少年の顔を見られずにいた。
少年の手しか見えない。
「あ、俺靴ひもほどけてる。
悪いけど結び直すから、
これ持っててくれる?」
まるで普通の少年と
話をしているような感覚だった。
私が少年の傘を持つと、
少年は座り込んで靴ひもを結び直す。
「何年?」
靴ひもを結び直しながら、
少年が問いかける。
「2年です」
「へー」
優しい返しだった。そして立ち上がると。
「じゃ!」
そういって私の横を通り過ぎていく。
「ちょっ、傘!」
少年は何も言わずに走り去ってしまった。