先生が前でさよならの挨拶をする。
どうしよう、まだ渡してない……。
「さよならー」
皆が帰り始める頃。
「あ、ねぇ、翔平君」
「何」
ぶっきら棒に返事をする翔平君。
「今日さ、一緒に帰らない?」
「……」
翔平君は無言で私の手を引いた。
少し速いスピードに、
何度か転びそうになった。
それでも私の
手を引く彼の力は変わらず、
私たちはそのまま私たちの家の方面に
歩いている。
もしかして……、怒っている?
「ねぇ、翔平君」
「……何」
「止まってよ……速いよ」
「ごめん」
私の手を強く握っていた彼の力が緩み、
私の手から滑り落ちた。
「あの……ね」
今まで思ってた事を
今日言うと決めたんだ。
「彼氏、出来たんだろ」
「へ?」
「さっき、俺見てたよ。
萩野が卯月さんの頭を撫でて
卯月さんが幸せそうに笑ってるとこ。
こんな日だしね、結ばれたんだろう?」
「違っ……!」
バッグからチョコを
取り出そうと思っていた手が震える。
豪雨に打たれるような感覚さえした。
寒い。
「それなのに彼氏でもない俺と
一緒に帰ってて嬉しい?幸せ?
俺に言おうと思ってたのは
彼氏が出来た事?それとも……何?」
今きっと翔平君は怒っている。
その原因が何かは分からない。
でもそんな言い方しなくたって……
「どうして」
ふと彼の目を睨んだ時、
雨が降っている事に気付いた。
「ん」
感覚が麻痺しているんだ。
「どうしてそんな言い方するの?
酷いよ。人の気も知らないで。
あんたなんか知らない」
翔平君のために作ったチョコを、
翔平君に投げつけてその場を走った。
心に決めた人がいたっていい。
ただ気持ちを込めたチョコさえ
受け取ってもらえればそれで良かった。
それなのにどうしてあんな事言うの?
酷いよ。

