あの騒ぎがあった夏休みが終わって
一週間経った頃の事。
あの事件は学校中の話題になっていた。
先生からも他のクラスの
知らない子からも賞賛されるし、
私たちは正に人気者だった。
「卯月さん。今日の放課後、
俺の家に来てくれないかな?」
如月君は突然、私にそんな事を言った。
どうやら2人きりで
話したい事があるらしい。
放課後、如月君の家に
あがらせてもらった。
彼の家はとても綺麗で、
丁寧に整頓されていた。
「リビングと俺の部屋、
どっちでもいいけどどうする?」
如月君は優しく微笑んでいた。
だけどその笑顔の中に、
何処か鋭さがあった。
「うーん。いきなり部屋を
覗かせてもらうのもあれだし、
リビングがいいよ」
そうして私たちはリビングに腰かけた。
如月君がオレンジジュースを2つ持ってくる。
如月君が一口飲むと、私も一口飲んだ。
「それで……。この前の
萩野の事なんだけどね?ほら、夏休みの」
慎重に伺うような口調。
「うん。それがどうかしたの?」
「どうしてあんな、
青ざめた顔をしてたの?」
一瞬、私の呼吸が止まる。
訊かれるだろうとは思っていた。。
だけどやっぱり何処かで、訊かれない事を
望んでいたのかもしれない。
「健太郎は昔――海に溺れて死の淵を
味わった事があるの。
だけどどういう事か、
奇跡的に意識を取り戻す事が出来たの。
その時は私もお母さんも
皆心から喜んだよ」
如月君は何も言わず、
真剣に私の話を聞いてくれる。
「数ヵ月経った時、
健太郎がいつものように私を抱き締めて
こう言ったの。
"苦しかった。怖かった。
生きてて本当に良かった。
もし死んでしまったら、
命に変えても守りたいものが守れない。
きっと……俺のこの強い想いが
体を助けてくれたんだと思う"って。
命にかけても守りたかったものって
何だろうって昔は思ってた。
でも健太郎とずっと一緒に過ごして、
なんとなく……なんとなくだけど
わかった気がするの」

