私達が叫びながら遊んでいると。
「きゃあああ!!」
楽しそうな声とは違う、悲痛な叫び。
誰もがぎょっとして振り返った。
近くにいたおじさんが
声の主であろう女性に話しかける。
「ど、どうかなさいましたか?」
終始その女性の顔は青ざめていた。
「うううう、うちの子が海に!!」
溺れたんです!!と女性は泣き叫ぶ。
「どの辺で覚えたんですか?」
冷静に対処するおじさん。
「あのあたりです!ああああ!
姿が見えない!誰か、誰か助けてぇぇ!」
悲痛な訴えに胸が痛くなる。
泳ぐのは得意だから……
私なら助ける事が出来るかもしれない、と
1歩足を踏み出した。
すると腕を捕まれる。
「行くな、馬鹿」
そう言って私を止めたのは健太郎だった。
「離して」
私は彼を真剣に睨む。
「お前まで溺れたらどうするんだ!」
健太郎も負けじと怒鳴る。
如月君と紗羅が息を呑んだのを感じた。
「誰も行かないじゃん!
あんた金槌のくせに止めないで!」
叫んでしまった。
言ってはならない事を。
健太郎は青ざめた顔になると、
私の腕から力を抜いた。
「ご、ごめん……。
私なら大丈夫だから。心配しないで?」
健太郎は青ざめた顔のまま
子どもが溺れた海を見つめた。
そして私は深く息を吸い込むと、
1人の若い男性に駆け寄った。
「すみません。そのゴーグル、
私に少しの間貸してくれませんか?」
男性は心配そうな面持ちで、
ああ、いいよと返事をすると、
私にゴーグルを差し出した。
「ありがとうございます」
ゴーグルを頭につけると、
男性は真剣な表情で言った。
「頑張って!」
感謝しながら溺れた子の
母親の元へ向かう。
「お子さんはど――」
「うちの子を助けて、お願い!」
質問する前に肩を強く掴まれて、
悲痛な叫びが耳に響く。
「お子さんはどの辺ですか?」
「あの辺!お願い!助けて!」
随分遠いところにいるようだ。
子どもの姿はかなり小さかった。