しばらく私たちは無言で歩いていた。
何か言わなきゃ……。
「そ、そうだ。如月君の家って
こっちなの?」
「うん。まだ道は同じ」
「もし近いなら、如月君の家も
どこなのか知りたいな」
「いいよ、近かったら教えてあげる。
俺も知りたいな、卯月さんの家」
「いいよ」
それだけで、会話は終わってしまう。
まだ何か言わなきゃ……。
「あ、ねぇ。如月君って
女の子の扱い上手だよね。
彼女とかいるの?」
如月君は少し苦笑する。
「あはは。そんなに女たらしっぽい?
俺はなるべく親切にしてるだけだよ。
もし男でも傘には入れてあげるしね。
彼女は……いた事ないな。
卯月さんはいるの?彼氏」
「いないよ」
また沈黙になってしまった。
どうしよう。何を話そう。
「あっ……」
沈黙を破ったのは、如月君だった。
何かを思い出したような声だった。
「どうしたの?」
如月君が私の目をしっかりとらえる。
突然どうしたのだろうか。
「あの雨の日、人気のない路地裏で
傘も持たず、不良のいる所に
たたずんでいた少女」
何の事を言っているのだろう?
「そうか、貴女だったのか」
頭の中を高速で整理して、
ようやくその言葉の意味を理解した。
あの時、傘を貸してくれた
白いフードつきの上着の少年……。
何故だか彼は今も、
あの時と同じ紺色の傘を持っている。
「あ……貴方だったの?
あの時は本当にありがとう。
まさかこんな形で会ってたなんて。
あ、私の家が見えてきた。傘、返すね」
如月君は驚いたような顔をした。
「俺はその裏の家だよ。
近くでも小学校が違ったんだね」
「近いね!あ、そうだ。
今日、学校終わるの早かったし、
ちょっと寄っていかない?
この前のお礼も兼ねてお礼、したいんだ」
如月君は少し考えるようにして、
首を縦に振ってくれた。