だけど、そのわりには
紗羅は如月翔平と話したりはしなかった。
ずっと健太郎と話している。
私はというと、
無論健太郎とは話すけれど、
最近は少しずつではあるが
如月君とも話をする。
「如月君ってさ……、
優しそうな目をしてるよね」
如月君は優しく微笑んだ。
「垂れ目だからね。
一応気にしてるんだけど、
そんな風に言ってもらえると
悪くないかなって思えるよ」
私も微笑んだ。
「ねぇ、俺と卯月さんと
あの2人で一緒に、今度カラオケに行かない?」
あの2人とは、健太郎と紗羅の事だ。
「私は良いよ。健太郎、紗羅。
今度4人でカラオケいかない?」
健太郎と紗羅はもちろん行く、と
テンションを上げていた。
放課後、雨が降っていた。
「ごめん、紗羅。うち、萩野と一緒に
お買い物しに行くんだ!」
そういって、いつも私と
一緒に帰る紗羅は、
先に健太郎を連れて、帰ってしまった。
「やっば。また傘忘れた」
傘を忘れた日に限って、紗羅がいない。
私はなんて運が悪いんだろう。
「俺が入れてあげようか」
肩を落として外をしばらく眺めていると、
後ろから声をかけられた。
声の主は如月君だった。
「え、いいの?
でも、家反対かもしれないじゃん」
如月君は微笑んだ。
「いいよ、反対でも。送ってあげる。
女の子が濡れて風邪を引くのを
放ってみておくなんて出来ないし」
「でも……」
何故だかすんなりと承諾が出来なかった。
「まだ……俺の事怖い?それとも、
俺と相合い傘ってのが嫌?」
「ううん」
即座に私は首を横に振った。
この数日で彼が優しい人だと
少しわかった気がしているからだ。
相合い傘とまでは、
考えていなかったけれど。
「じゃあ、入りなよ」
如月君が扉から傘を掴んだ手を出して、
傘を翳した。
少し遠慮がちに、彼の隣に並ぶ。
「そんなに離れてたら、
俺も卯月さんも濡れちゃうよ」
如月君は少し笑いながら、
私の腕を自分の方へ優しく引いた。
(女の子の扱いに慣れてるのかな?)
私たちは歩く速さに気を使いながら
ゆっくりと歩き始めた。

