紗羅はもしかしたら昔、
如月翔平の事が
好きだったのかもしれない。
如月翔平は紗羅の事を
からかっているのだろうか?
「卯月さん」
考え事をしている私に声をかけたのは、
緊張気味に微笑む如月翔平だった。
「はっ、はい?」
明らかに恐怖を抱いているように
見えるだろう。彼は切なく笑った。
「怖がらないで…」
さっきも言われた言葉。
そういえば少し前、
不良に怖がらないでって言われたっけ。
確かそれは雨の日の放課後で……。
……まさか、ね。
「俺、噂通り元ヤンでさ。
色々勉強がわからないんだ。
卯月さんで良ければ
俺に勉強を教えてくれないか?」
私は彼の目を見ずに答えた。
「……紗羅に教えてもらったら」
きっと無愛想だったに違いない。
これでは怖がっているのではなくて、
彼の事を嫌っているように
捉えられたかもしれない。
健太郎が口を挟んだ。
「俺が教えてやるよ。
俺が分かんない所は、
希美にでも紗羅にでも訊けばいい」
健太郎は私を助けてくれたんだ。
少し嬉しくて、心の中で感謝した。