友人にも1人だけパンドラがいるが、友人と違ってクロードは優秀なパンドラではない。
 あまり役に立たない自分が不甲斐なく情けなく、クロードは自分がパンドラであることを公にすることに躊躇いがある。

 だが見ず知らずの自分を家に招いてくれた。
 パンドラを明かすのは、その理由だけで十分だった。


 もしそのパンドラで人の力になれるのであれば、もっと自信を持って言いたいのだが。



「じゃあ、わたしと一緒だね」


 初めて見せてくれた眩しい笑顔から一転、しょんぼりと肩を落としてしまったクロードの両手を、キリエが取った。


「え?」


「わたしもね、パンドラのつかいかた、へたっぴなんだよ」



 キリエは飾らない笑顔でそう言い、あまり大きさの変わらない両手を優しく握る。



「またこんど、クレドとわたしをどこかにつれていってね」


 幼い、けれどとても心地の好いその声が、すっと胸におりた。


 人好きする可愛らしい笑顔にクロードは頬を赤く染め、小さく頷いた。
 
 今はそうすることがいっぱいいっぱいだった。




 クレドは幼いやり取りをする2人を面白くなさげに眺め、泡のついた手を水で洗い流す。
 キリエも年下相手だから気さくになっているのであろう。

 しかも“こんなところ”へやってきたばかりの気弱そうな少年だ。


 彼だけは、百歩譲って自分に次ぐポジションを認めてやろうと思った。