キリエはクレドを見遣る。



「治してやって」


 
 クレドがヨシュアに乱暴したのは、このためなのだと安堵し、キリエはコクリと頷いた。



 キリエは何も言わずにその小さな手の平から翡翠の光を発した。

 治癒が始まったのを確認して、クレドはいきなりヨシュアが暴れださないように両手でしっかりとその両腕を拘束する。



 じわじわと痛みが薄れていく不思議な感覚に、ヨシュアは屈辱と少しの解放感を感じた。



 敵にこんな情けをかけられるなんて、仕打ち以外何でもないが、あの痛みから解放されて嫌なわけがなかった。



 
 仕返しというには幼稚ではあるが、ヨシュアは試しに自分のパンドラを発動させてみた。

 しかし、やはりどちらの記憶も流れ込んではこなかった。




 キリエによる治癒が終わると、クレドはあっさりとヨシュアの上から退き、床に降りた。


 それでもヨシュアはその状態から起き上がることはせずに、ぼんやりと目の前にある木目を壁を見た。




 そんなヨシュアに、キリエは




「ごめんねヨシュア……わたしと友達になってくれてありがとう。うれしかったよ」


 と、言った。



 寂しそうでもあり嬉しそうでもあるキリエの横顔を見て、クレドは彼女の手を取りこの部屋から出て行った。



 扉のすぐ横にはガラハドがおり、クレドは先程預かった形見のペンダントを無言で返した。



「手間掛けてすまなかったな。お前さん等には感謝するぜ」



 
 ガラハドに穏やかな表情でそう言われ、キリエは自分のしたことは間違いではなかったのだと、やっと小さく微笑んだ。