FatasyDesire~ファンタジー・ディザイア~

 うつらうつら意識を失いそうになった時、―――クレドは確かに見ていた。



 何故かはわからないが、目の前に大人の男と覚しき人物がいたことを。


 そしてその人物はクレドの額に優しく触れると、手の平から寒寒しい氷色の光を出した。


 その瞬間クレドは自分の体の毒気が抜かれていく感覚を味わい、次いで完全に意識は持っていかれた。






 次に目が覚めた時には、二人ともガーネットの病室に寝かされていた。


 園長先生達の中には安堵から泣く者もいれば、こっぴどく叱り付けた者もいた。



 先生達の話によれば彼等はガーネットの門の前で発見されたらしい。

 二人を包むようにして包んでいた大きなコートは黒く、上質の素材で出来ていた。


『誰か親切な方が助けてくれたのね』

 そう言った園長先生の目は感謝と安堵でいっぱいだった。




 もう二度とこんなことはしないでおこうとお互い約束した。


 これが幼いクレドとキリエの脱走劇であった。



 そこで目を覚ましたクレドは、今まですっかり忘れ去っていた人物がいたことに目を見開く。


 自分に擦り寄ってぐっすりと眠るキリエの体温を右腕に感じる。

 外はまだまだ暗いみたいで、頑丈にできた分厚い窓ガラスには、月明かりが滲んでいた。


 
 夢の中で見た男の手から放たれた氷のような光は、間違いなくパンドラを使った時に顕れるものだった。


 幼い頃はそれが何であるかも知らなかったが、今となっては何であるかなんてわかりきったものだった。



 あの時、彼と彼女はパンドラに助けられたのだ。

 ただ黒いコートと氷色の光だけが手掛かりの人物に。


 ただの通りすがりだろうかとクレドは考えるが、何となく違う気がした。

 完全な勘ではあるものの、どうしてもそれをただの"通りすがり"や"偶然"で済ませるには何かが引っ掛かった。



 とは考えた所で、彼等にはガーネット関係者以外に知人はいないため、何の証拠もないのだ。



 しかし黒コートの男が誰か考える一方で、絶対に突き止めたいとも特に思わなかった。


 だからクレドは隣のキリエをチラリと見遣ると、また瞼を閉じた。




 翌朝、珍しくクレドよりも早く起きたキリエは、少し得意げになってユサユサと彼の体を揺さ振った。


「クレド、朝ですよ~。起きなさーい」


 キリエはここへ来てクレドの寝顔を初めて見た。
彼はいつもキリエが眠るまで寝ることはないのだ。



「……ん」


「あーさーだーよー! ご飯つくってクレドー」


 お腹空いたと騒ぎ、布団越しに強くクレドを叩くと、クレドは唸りながらゆっくりと目を開いた。