FatasyDesire~ファンタジー・ディザイア~


『……ぼ、ぼくも、一緒にいく』


 出たい、けれどそれと同じくらい外が怖い。

 それでもキリエならば、自分を連れ出してくれるのだ。


 それに何よりキリエ一人で行かせることは、できなかった。




 外は雪が積もりに積もっていた。
 アヴァリティア国は気候の寒い国だ。

 もうすぐでクリスマスのこの季節になると、もう雪は降っているし夜中は極寒だった。



 一階建て窓から出る時、着地に失敗したキリエは泣きそうな顔をしたが、『泣かないもん』と言って本当に泣かなかった。


 クレドは窓を外から閉めると、手袋越しにキリエの手をギュッと握った。

 外は相変わらず寒かった。
 しかしキリエと一緒ならば、クレドは何でもできそうな気もしていた。

 いつも自分を引っ張ってくれるのは、この二つも下の少女なのだ。



 忍び足でガーネットの庭にある、二人しか知らない抜け穴に行った。

 子ども一人が通るのが精一杯の、低木層の穴だ。



 そこを抜けると、いつも先生たちに連れていってもらっている町並みが広がっていた。


 クレドはキリエに着いた雪や土や葉を払ってやると、また手を繋いでそこから歩き出した。



 クレドは覚えている道のりを進んだ。
 ずるずると鼻を啜るキリエの手はしっかりと一回り大きな手を握っている。




 二人は小さなその足で歩き続けた。

 見知った景色がなくなっていくことに不安にかられるクレドを、次はキリエはぐいぐいと引っ張った。

 『だいじょうぶだよ』『こわくないよ』と愛らしく笑って、クレドを元気付けた。

 その度クレドは自分が情けなくなりながらも、必死で緩まる涙腺を引き締めたのだ。



 二人がワンドから出た頃、まだ辺りは真っ暗で、空の黒と地の白のコントラストだけが視界に広がっていた。


 町並みは次第に見えなくなった代わりに見えてきたのは、深い森である。
見たこともないような暗闇の森に、二人は戦慄し、互いの手をギュッと握った。


『……ケホッ』


 その時、久々に口の開いたのはクレドだったが、それはただの咳であった。
そしてその咳で堰を切ったように、ゲホゲホと酷い咳を繰り返した。


『クレド? だいじょうぶ?』


 風邪をひいて寝込む前と同じ症状のクレドを心配して、キリエは彼の顔を覗き込む。


『う……だいじょう、ゲホッゲホッ…』


 何度も咳をしたからかクレドの目尻には涙が溜まり、その表情は苦しそうに歪んでいた。


 キリエはどうすれば良いのかわからなくなり、クレドの背中をゆっくりとさする。



『っクレド、くるしい? あるける? あるけなかったら、キリエがおんぶするよ』


 以前キリエが転んで足を怪我した時、クレドがそうしたから少女も今それと同じことをしようと思ったのだろう。


 しかし自分より小さく細い少女にそんなことが出来ないのはクレドもわかっていた為、フルフルと首を横に振った。


 ぼんやりとしてきた頭に、熱い体の芯、徐々に痛み出した喉。

 クレドは今までの経験から、自分がまた発熱したのだと気付いた。


 自覚すると一気に体が重くなり、どうしてわざわざこんな時にと、クレドは泣きたくなった。

 辺りを見回すも、民家らしき建物は一つもない。



 最初こそ引き攣った笑顔で鼓舞していたキリエも、徐々に徐々にその表情は不安と焦燥に代わっていき、しまいには泣き出してしまった。


『うわああああんっ……ひっく、う、ぇ。園長せんせぇ……っ』


 何故ガーネットから出てきてしまったのか、何故自分には両親がいないのか、何故クレドは今自分をいつものように笑って宥めてくれないのか。


 いろんな思いがぐるぐるとキリエの中を駆け巡り、それらは涙となって溢れてきた。



 一方のクレドは体の怠さに気力すらやられ、ぜーぜーと荒い呼吸を繰り返す。


 何とかしなければと思うのに、この現状は何ともなりそうになかった。
 

 ついに二人は疲れ果て、一本の太い樹の幹に寄り添うように座り込んでしまった。


『……かえりたいよぉっ』


 しくしくと泣くキリエは、熱で浮かされたクレドをギュッと抱きしめた。

 クレドは少女の狭い腕の中で、寒さと虚しさをただ噛み締めた。



 暫くすると少女の泣き声は止んだ。
 チラリと上を見てみると、少女は目をつむり、カクカクと船をこいでいた。

 少年もそんな少女を見て気が緩んだのか、ゆっくりと瞼を下ろした。