クレドが急いで帰宅したのはもうすっかり月が顔を出した時間であった。
走って帰ってきたらしく、彼にしては珍しく息を切らして肩で呼吸をしていた。
「ただいま、キリ」
しかしパッと顔を上げた時、クレドはぽかんと目を見開いた。
脱ぎかけた黒のブーツをそのままに横の壁に手をついた。
「キリエ、何してるの」
「あ、おかえりなさい!」
キリエはクレドを見るなりにパアッと笑顔になり、しゃがみこんだ体勢からすぐに立ち上がって、彼へと駆け寄った。
そしてその勢いのまま自分よりも幾分大きな体に飛び付いて頬を摺り寄せる。
いつもなら頭を撫でたり頬にキスをしたりもするのだが、さすがのクレドも、キリエが何故今下着姿なのかが気になってそれどころではない。
詳しく言えば、キャミソールにパンツのみで髪の毛はビショビショだったのだ。
「風呂に入ったのか?」
「うん! 今から自分で髪の毛かわかそうとしたの」
クレドは見上げてくる彼女の顔から部屋へと視線を移す。
脱ぎ散らかされたパジャマに、コンセントがささったドライヤー、おまけに床はキリエのロングヘアーからボタボタと落ちたらしい水で濡れていた。
他にも食事を食べ終えた食器などがテーブルの上に数枚あったが、これはクレド自身がキリエにキッチンに近付くなと言ったからいいのだ。
「でもね、前にトーマにもらったパジャマの着方がわからなかったの。紐がいっぱいあるしきゅうくつだったよ」
先日トーマにパジャマをもらったとはしゃいでいた彼女を思い出し、クレドはああ、と頷く。
「じゃあ髪の毛乾かしたら着方教えてあげるよ」
そう言ったクレドに下心はなく、純粋に妹の世話を見る兄のような気持ちであった。
仕事柄女性の下着姿なんて飽きるほど見てきたクレドにとって、今更キリエの下着姿を見ても特別動揺などはしなかった。
体の発育が良いとは言えない、どちらかと言われればカナリ遅い方の彼女は、言うなれば幼児体型だ。
質の悪いロリータ好きには堪らないだろうが、生憎とクレドにはそんな趣味はない。
ただ彼女が好きなだけだ。
ブーツを脱いで部屋に上がり、着替えよりも先にキリエの髪の毛を乾かしてやった。
一点だけにドライヤーを当てるのはあまり良くなく、クレドは次々と小さく移動して綺麗な髪の毛に風を当ててやる。
時折鼻歌を歌う彼女に「何の歌?」と聞くと「ギルにならったうた」と答えた。
ギル――その名前に反応したクレドは一瞬だけ乾かす手を止めたが、すぐに再開する。
「前にも言っていたよな。ギルって誰なんだ?」
クレドは器用にも仏頂面で、声だけは優しく問う。
「ギルはねー、すっごくやさしい人なんだよ。わたしと一緒にあそんでくれたの」
無邪気に答える彼女は、そのギルという人物に親しみや愛情を感じているらしく酷く優しい顔をする。
「それにね、さびしい時もずっとそばにいてくれたの」
自分で聞いておきながら、クレドは更に不快な気分になった。
何故ならクレドはキリエがここへ来てからというものの、仕事仕事で全然彼女に構ってはいなかったからだ。
1日の大半はトーマに預けているため、クレドよりもトーマと過ごす時間の方が長いと言っても過言ではない。
別に責められているわけではないのに、暗にそう言われた気がした。
それでも仕事を辞めないのは、ジュリナに対しての恩があるからだ。
あの時自分を拾ってくれたジュリナには、周囲が思っているよりもクレドには強い感謝があった。
辞めたいと言えばジュリナは、何の尾も引かずに辞めさせてくれるだろう。
だが、仕事は辞められない。
これがクレドがジュリナに示す不器用な感謝の形なのだ。
髪が長いキリエはドライヤーを使っても乾くには20分弱の時間を要する。
それでもそれを嬉しそうに続けたクレドは、完全に髪の毛が乾いたことを確認すると満足そうに微笑む。
「できたよ」
「ありがとう。わたしクレドにかわかしてもらうの好きよ。なんだか気持ちいい」
「どういたしまして。キリエの髪ならいつだって乾かしてあげるよ」
ニッコリと効果音が出そうな程笑った彼女は、再度礼を言うと床に脱いだパジャマに手を伸ばす。
「んとね、次はこれ、どうやって着るの?」
トーマからもらったと言うパジャマを広げてみると、それはそれは何処かの貴族が着るようなデザインで、所狭しとリボンやらフリルがあしらわれている。
少し複雑な作りになっているが、着られないというものでもない。
クレドは暫しパジャマを吟味すると、どう着ればいいか閃いたらしい。
「おいで」
可愛らしいパジャマ片手に手招きをすると、キリエは素直に彼の前に行き、その端正な顔を見上げた。
シミュレーションっぽく、クレドがパジャマの何処のリボンを解いてから、何処から着るやら、着る時のコツやらをレクチャーし、彼女は6回目にようやくそれらを理解できた。
タイトなパジャマはあまり寝心地が良いとは言えなさそうだが、キリエは気に入ったみたいで嬉しそうに風呂場に駆けて行った。
恐らく鏡を見ているのだろう。
走って帰ってきたらしく、彼にしては珍しく息を切らして肩で呼吸をしていた。
「ただいま、キリ」
しかしパッと顔を上げた時、クレドはぽかんと目を見開いた。
脱ぎかけた黒のブーツをそのままに横の壁に手をついた。
「キリエ、何してるの」
「あ、おかえりなさい!」
キリエはクレドを見るなりにパアッと笑顔になり、しゃがみこんだ体勢からすぐに立ち上がって、彼へと駆け寄った。
そしてその勢いのまま自分よりも幾分大きな体に飛び付いて頬を摺り寄せる。
いつもなら頭を撫でたり頬にキスをしたりもするのだが、さすがのクレドも、キリエが何故今下着姿なのかが気になってそれどころではない。
詳しく言えば、キャミソールにパンツのみで髪の毛はビショビショだったのだ。
「風呂に入ったのか?」
「うん! 今から自分で髪の毛かわかそうとしたの」
クレドは見上げてくる彼女の顔から部屋へと視線を移す。
脱ぎ散らかされたパジャマに、コンセントがささったドライヤー、おまけに床はキリエのロングヘアーからボタボタと落ちたらしい水で濡れていた。
他にも食事を食べ終えた食器などがテーブルの上に数枚あったが、これはクレド自身がキリエにキッチンに近付くなと言ったからいいのだ。
「でもね、前にトーマにもらったパジャマの着方がわからなかったの。紐がいっぱいあるしきゅうくつだったよ」
先日トーマにパジャマをもらったとはしゃいでいた彼女を思い出し、クレドはああ、と頷く。
「じゃあ髪の毛乾かしたら着方教えてあげるよ」
そう言ったクレドに下心はなく、純粋に妹の世話を見る兄のような気持ちであった。
仕事柄女性の下着姿なんて飽きるほど見てきたクレドにとって、今更キリエの下着姿を見ても特別動揺などはしなかった。
体の発育が良いとは言えない、どちらかと言われればカナリ遅い方の彼女は、言うなれば幼児体型だ。
質の悪いロリータ好きには堪らないだろうが、生憎とクレドにはそんな趣味はない。
ただ彼女が好きなだけだ。
ブーツを脱いで部屋に上がり、着替えよりも先にキリエの髪の毛を乾かしてやった。
一点だけにドライヤーを当てるのはあまり良くなく、クレドは次々と小さく移動して綺麗な髪の毛に風を当ててやる。
時折鼻歌を歌う彼女に「何の歌?」と聞くと「ギルにならったうた」と答えた。
ギル――その名前に反応したクレドは一瞬だけ乾かす手を止めたが、すぐに再開する。
「前にも言っていたよな。ギルって誰なんだ?」
クレドは器用にも仏頂面で、声だけは優しく問う。
「ギルはねー、すっごくやさしい人なんだよ。わたしと一緒にあそんでくれたの」
無邪気に答える彼女は、そのギルという人物に親しみや愛情を感じているらしく酷く優しい顔をする。
「それにね、さびしい時もずっとそばにいてくれたの」
自分で聞いておきながら、クレドは更に不快な気分になった。
何故ならクレドはキリエがここへ来てからというものの、仕事仕事で全然彼女に構ってはいなかったからだ。
1日の大半はトーマに預けているため、クレドよりもトーマと過ごす時間の方が長いと言っても過言ではない。
別に責められているわけではないのに、暗にそう言われた気がした。
それでも仕事を辞めないのは、ジュリナに対しての恩があるからだ。
あの時自分を拾ってくれたジュリナには、周囲が思っているよりもクレドには強い感謝があった。
辞めたいと言えばジュリナは、何の尾も引かずに辞めさせてくれるだろう。
だが、仕事は辞められない。
これがクレドがジュリナに示す不器用な感謝の形なのだ。
髪が長いキリエはドライヤーを使っても乾くには20分弱の時間を要する。
それでもそれを嬉しそうに続けたクレドは、完全に髪の毛が乾いたことを確認すると満足そうに微笑む。
「できたよ」
「ありがとう。わたしクレドにかわかしてもらうの好きよ。なんだか気持ちいい」
「どういたしまして。キリエの髪ならいつだって乾かしてあげるよ」
ニッコリと効果音が出そうな程笑った彼女は、再度礼を言うと床に脱いだパジャマに手を伸ばす。
「んとね、次はこれ、どうやって着るの?」
トーマからもらったと言うパジャマを広げてみると、それはそれは何処かの貴族が着るようなデザインで、所狭しとリボンやらフリルがあしらわれている。
少し複雑な作りになっているが、着られないというものでもない。
クレドは暫しパジャマを吟味すると、どう着ればいいか閃いたらしい。
「おいで」
可愛らしいパジャマ片手に手招きをすると、キリエは素直に彼の前に行き、その端正な顔を見上げた。
シミュレーションっぽく、クレドがパジャマの何処のリボンを解いてから、何処から着るやら、着る時のコツやらをレクチャーし、彼女は6回目にようやくそれらを理解できた。
タイトなパジャマはあまり寝心地が良いとは言えなさそうだが、キリエは気に入ったみたいで嬉しそうに風呂場に駆けて行った。
恐らく鏡を見ているのだろう。
