「今日は楽しかったよ。またね」
「あの!」
「何?」
「た、助けてくれてありがとうございました。あと、ごちそうさまでした」
「どういたしまして。次に会ったときに俺のことをもっと教えてあげる」
 ドアが閉まると、彼はにっこり笑いながら手を振っていた。電車が動き出しても、彼から視線を逸らさなかった。
 彼が見えなくなって今日を振り返ってみると、本当にいろいろなことがあった。
 家に帰ったら、今日のことをお姉ちゃんに教えようと決めた。
 私が家で夕飯を食べるときに今日のことを話すと、お姉ちゃんも驚きを隠せていなかった。ゆっくりと休むように言われて、この日は早めに布団の中に入った。
 そして次の日の朝、いつものように学校の階段を上ろうとしたとき、足を滑らせて背中から倒れそうになった。
 だめ!ぶつかる!
 いつまで経っても痛みはなく、そっと目を開けると、誰かの腕に支えてもらっていた。
「す、すみません。ありがとうございました!」
「昨日の再現?日向ちゃん」
 どこかで聞いたことがある声。
「どうして・・・・・・ああっ!あなた!」
 顔を見ると、昨日の男性で、同じ高校生だった。
「川野君。ありがとう」
「ん?川野?」
「知っているでしょ?川野青空君。日向が一年のときに文化祭実行委員をやっていたときにときどき話を聞かせてくれたの」
「あ!」
 そうだった。あのときはクラスの人達に推薦されて、初めての実行委員だったから、いつも不安を抱きつつ、一生懸命にやっていたんだ。
「青空と書いてそらと読むんでしたよね?」
「そう。思い出した?変わった名前だからすぐに人に覚えられるのに、君は綺麗さっぱり忘れているから最初は信じられなかったよ」
 だから私のことをずっと知っていたのね。
「滝村、日向ちゃんを土曜日か日曜日に借りてもいい?」
 借りるって何?
「いいよ、どうするの?」
 あっさりと許可しないで!
「前からこの子のことが気になっていたから、もっといろんなことを知りたいなと思って」
「ちょっと勝手に!」
「大丈夫だよ。休日は暇だから。あまり遅くならないでね?」
 お願いだから話を中断して!
「わかっている。じゃあ、連絡先はあとで渡すから」
「いりません」
「いいよ?滝村に教えてもらうからメールする・・・・・・」
「わかりました!待ってます!」
 知らない間に情報交換されるなんて恐ろしいよ!
「良かった。少しは理解力があって」
 失礼な人ね。
「まぁ、いっか。じゃあ改めてこれからよろしくね。日向ちゃん」
 変な人に気に入られるなんて。
「よろしくお願いします。川野先輩」