「どうして私に近づくんですか?」
「だって見ていて面白いから」
「面白くないです」
 私はあなたの玩具ではありません!
 文句を言おうとしたとき、店員がケーキを運んできた。
「他にご注文はございませんか?」
「うん、ないよ」
「では、ごゆっくり」
 彼は店員が去ってから顔を寄せてきた。
「美味しそうだよ?食べないの?」
「食べますよ!」
 コーヒーを飲んでからケーキを一口食べた。
 ここのケーキの味、悪くない。
 夢中になって食べていると、携帯の着信音が鳴った。出ようか迷っていると、彼は手を前に出して、出るように促した。
「もしもし」
「日向?お姉ちゃんだけど、もう四時になるよ、帰りは遅くなりそう?」
「うん。ごめんね、お姉ちゃん。ちゃんと連絡しなくて」
「いいよ。それより今日の夕飯はうどんだけど、ひょっとして外で食べる?」
 そこまで外出する気はないので、食べないことを伝えた。
「えっと、先に食べていて。私は家に帰ったら、自分で作るから」
「わかった」
 電話を切って彼を見ると、コーヒーを飲み終えたばかりだった。
「先に食べるように言ったってことはこのあとも俺と一緒にいてくれるんだよね?」
 どうしてそうなるのですか!?
 そんな都合のいい解釈をしないでください。
「違います!」
 ちゃんと外食しないことを言ったのだから、聞こえていますよね?
 さっきよりケーキを大きく切って食べたせいで口元にクリームがついた。それに気づいた彼は手を伸ばして指先でクリームを取った。
「子どもっぽいね」
 言われっぱなしは嫌なので、反撃を開始した。
「こんな子どもっぽい女と一緒にいたがるあなたは変わり者です」
「そうかな?」
「そうです。それより名前を教えてくれてもいいですよね?」
「やだ」
 あなたが子どものようです。
 私は本気でそう思った。
「だったらどこで知り合ったのですか?」
「気が向いたら教えてあげる」
「今!」
 この人の趣味は人を怒らせることなの?
 悪趣味な人だと頭の中に書き記した。
「いつかわかるから。そんなに怒らないで」
 怒らせているのはあなたですから!
 人と一緒にいて、こんなに怒ることは珍しいことだ。
 次から次へと何なのだろうと疑問に思う。
 そのあと約二時間半、雑貨屋や服屋、ペットショップなど、あちこち連れて行かれて足が痛くなってきたので、公園のベンチに座っている。
「公園で休んだら、夕飯を食べに行く?」
「行きません!私は家で食べます!」
 片手で足をさすっていると、彼は心配そうに私の足を見た。
「日向ちゃん、足、痛む?」
「大丈夫です」
 本当は少し痛いけど、強がって平気だと言った。
「いっぱい歩いたからね。さてと・・・・・・」
 どこかに強引に連れて行かれるのかな?
「そろそろ帰ろうか?あまりしつこくして嫌われたら嫌だからね」
 あれ?ちょっと意外。
 駅まで送ってもらい、電車に乗った。ドアはまだ開いた状態になっている。