「それじゃ、まず相手と組み合う姿勢からだ」

 師範と佐奈田は向き合った。

「その時に脇をしっかりしめて」

「は、はい」

 佐奈田は拳を握った。

「絶対に拳を握らないように」

「何で?」

「相手と闘う時にパンチだと、自分の指が骨折しかねないからな」

「はぁ……」

 師範はいきなり張り手で顔を叩いた。驚いて佐奈田は床に腰を落とした。

「わあ! 何をするんですか?」

「まだまだな」

「だって今日きたばかりだもん」

「君のスジでは十年はかかるのう」

「ええ、今日中に何とかならないですか?」

「無理だ」

「そこを何とか」

「しょうがない。とっておきのを」