「はい! 師範」

 師範がラジカセの再生のスイッチを押した。

流れた曲は演歌だった。

「どうだ、いい曲だろ」

「演歌はあんまり……それよりアイドルとかの曲の方がいいです」

 と、佐奈田は足がしびれたので、体育座りをした。

「バカモーン! 演歌は日本人の心だ! そんなわけのわからない雑音など聞くだけで弱くなるぞ!」

「はあ、そうですか。でも……」

「演歌のあとに演歌はない! 正座にしなさい」

「でも、足が……」

「足がしびれても死ぬことはない」

 佐奈田は渋々ながら正座した。

「何かよくわからないなあ……」

 と、佐奈田は師範に聞こえない程度の小声で言った。

 演歌を五曲流し終えた。

「いーや、よかったな。さあ次は肉体の訓練じゃ、立ちなさい」

佐奈田は立ち上がろうとするが、足がしびれて立てない。

 師範は真顔で、立ち上がろうとする佐奈田の足を叩いた。