でも蒼甫先輩は「いや……」とひと言口を開くと、その後黙り込んでしまった。
「せ、先輩?」
なにか様子がおかしい。
「あ、ああ悪い。竹内さんからの内容は大体わかってるからな。ま、まあ、連絡は今晩でも大丈夫だ」
蒼甫先輩にしては歯切れの悪い言い方に、多少の疑問が残る。でも大丈夫だという蒼甫先輩の言葉を信じ、これ以く聞くことはやめた。
「じゃあ、買い物に付き合ってください」
「買い物? なにか欲しいものでもあるのか?」
蒼甫先輩は運転しながら、チラッとこっちを窺う。
「欲しいものっていうか。もともと今日時間があったら、MC用のスーツを買いに行こうかと思ってて。もし先輩が暇だったら、このまま車で乗せていってもらいたいなぁと」
「なんだよ、それ。俺は都合のいいアッシーか」
なんて文句を言うくせに笑顔を見せる蒼甫先輩を見て、私もつられて笑ってしまう。
「アッシー、いいですね! もう今日は、とことん付き合ってもらいます!」
「まったく。優しくしてやるのも今日だけだからな。明日から、覚悟しておけよ」
「そ、それは遠慮したいんですけど……」
「覚悟しておけ」と脅迫まがいなことを言われているのに、何故かそんなやり取りが楽しいなんて。なんとも言えない不思議な気持ちのまま、蒼甫先輩を見つめた。


