渋々車の乗り込み、蒼甫先輩を横目で見る。
「なんだよ、言いたいことでもあるのか?」
「言いたいことって言うか、なんだかいろいろ申し訳ないなと思いまして……」
なんだか自分が不甲斐なくて、意気消沈してしまう。
「椛が気にすることない。俺が勝手にやったことだからな」
そう言われれば、そうなんだけど。
蒼甫先輩から見れば、私はいつまで経っても後輩で、いつまで経っても職場の従業員。それは変わることがない。
でも学生の時とは違う。今月末には三十路を迎える、行動や見た目はどうであれ一端の大人。今日のお礼は、今日中に返したい。
「先輩。このあとって時間ありますか?」
「時間? ああ、まあ特には予定ないけど」
蒼甫先輩はそう言いながら、時間を気にする素振りを見せる。
あ、そう言えば……。
「仕事のことで、竹内さんに連絡しないといけなかったんですよね?」
そのことを忘れていた。そんな蒼甫先輩を、いつまでも引き止めるわけにはいかない。


