極上御曹司のイジワルな溺愛


火事場の馬鹿力だろうか。普段じゃ出ないような力が勝手に出て、副社長は派手に倒れてしまう。床に腰を打ち付けた彼は、痛そうに顔をしかめた。

「先輩! 大丈夫ですか?」

慌てて駆け寄り、副社長を抱き起こす。

「心配するくらいなら、最初から突き飛ばすなよ」

そう言って副社長は腰をさすっているが、元はと言えば副社長が悪いわけで。彼が私にキスをしなければ、こんなことにならなかった。

「そうですけど、私絶対に謝りませんから」

副社長は上司だが、それとこれとは別問題。

「相変わらず、気だけは強いな」

「そういう問題じゃないと思いますけど? 意味もわからずキスされて、怒らない人がどこにいます?」

「ファーストキスでもないだろ、ギャーギャー喚くな。小うるさい口を塞いだだけだ。減るもんじゃあるまいし」

「減ります!」

二十九歳にもなって『乙女か!』と言われそうだけど、キスは大切な人とするもの。何が悲しくて三年ぶりのキスを、彼氏でもない副社長に奪われなきゃいけないんだろう。

副社長を見れば悪ぶる素振りさえ見せず、平然としている。