それは体のいい“出て行け”、と言うことなんだろう。

そうだよね。千夜さんがお手伝いさんとして来ているのに、こんな豪邸に誰も住んでないなんて。ちょっと考えればわかりそうなことを浮かれていた私は全く気づきもせず、のこのことやってきてしまった。

会長の豪邸に、副社長とふたりっきり。いくら大学からの付き合いで先輩後輩の仲でも、男と女がひとつ屋根の下で暮らすなんて道理に外れている。

「副社長が暮らしていると知らなかったとは言え、何も言わず勝手に決めてしまいすみませんでした。今すぐに出ていきます」

まだ叔父には連絡を入れていないし、今朝までの生活に戻るだけ。ちょっと寄り道してしまったと思えば、どうってことない。

これでいい──

そう頭ではわかっているのに、どうして私は寂しいと感じているの?

答えが出ないままダイニングを出ようと、副社長の横を通り過ぎる。

「誰が出て行けと言った?」

扉を開けようと伸ばしかけた左手首を副社長に掴まれて、足と思考が同時に止まった。

「っ!?」

言葉にならない声が出てしまう。掴まれている左手首と早鐘を打つ胸が痛い。

私は訳がわからないまま、立ち上がった副社長の顔をゆっくりと見上げた。