どうやら人間というものは、あまりに驚きすぎると冷静になるらしい。

「悪い……」

副社長はそう言ってゆっくり扉を閉め、脱衣場から出ていく。

我に返った私は、今目の前で起こった状況を整理し即座に把握した。

「きゃああっ!! 副社長の変態、スケベ! なんで裸なのよーー!」

いまさら遅いが、きっと見られたであろう胸を両腕で隠すと、ぺたんと床にしゃがみ込む。

なんで、どうして、会長の家のお風呂に副社長がいるの?

誰かの陰謀、それとも悪夢?

こんなテレビドラマみたいな展開、誰が予測した?

しかも私も見てしまった。副社長の見てはいけないモノを見てしまったあぁぁ。

「誰か、嘘だと言って……」

昼間貧血で気を失ったところをお姫様抱っこで運ばれた件だってまだ解決していないのに、こんな事があっては尚更顔が合わせにくい。

ここから出ればリビングかダイニングに、副社長はいるだろう。

なんて声をかければいい?

途方に暮れる私の体は、すっかり冷めてしまった。