会長の家の風呂はなんと、二十四時間いつでも適温を維持してくれる自動保温機能付きの浴槽。千夜さんが「好きなときに何度でも入れますよ」と自慢げに教えてくれた。
「まるで温泉だわぁ~」
冷えていた体が温かさに包まれ、まだ残っていた疲れやダルさを取り除いてくれる。
こんなゆったりとした気分でお風呂に入るのは、何日ぶりだろう……。
もう少し長く浸かっていたいところだけれど、のぼせてしまったらそれこそ身も蓋もない。
「仕方ない、出るか」
ゆっくりと湯船から上がりタオルで体を拭く。バサバサと髪を拭いていると、脱衣場の方から音が聞こえたような気がして手を止めた。
誰かいる?
頭からタオルを取りすりガラス越しに脱衣場を見るが、何の気配もしない。
気のせい?
私の勘違いだったと両手を上に伸ばし背伸びをしていると、目の前の扉が無遠慮に大きな音を立てて開いた。
「……椛?」
「……ふ、副社長……」
お互いに素っ裸。見事に、一糸まとわぬ姿だ。
どうしてここに、副社長がいるの? なんで裸?
そう思うのに、真っ白になった頭では言葉がすぐに出てこない。動くこともままならなくて、ただ真っ直ぐ副社長の顔を見つめていた。