極上御曹司のイジワルな溺愛


「え。で、でも……」

MCとして結婚披露宴に慣れていても、主役になって注目されることには慣れていない。

何が起こっているのか未だわからない緊張感で足は震え、どんどん速くなっていく鼓動に息が苦しい。

伏目がちだった目を上げると不敵な笑みをたたえて歩いてくる蒼甫と目が合って、嫌な予感しかしない私はめまいを起こしそうだ。

周りを見ればゲストも雅苑の従業員はこのことを知っているのか、みんな笑顔で拍手をしている。

ハメられた──

式が始まる前に麻奈美が『副社長から許可が出てるみたい』と言っていたし、これはきっと蒼甫の仕業に違いない。

そう思った私はキッと蒼甫を睨みつけ、唇を真一文字に結んで腕を組む。

「一体これは、どういうこと?」

そばに来た蒼甫に、小声で話しかける。

「うるさい、黙れ」

久しぶりに聞くセリフに、ビクッと体までもが震える。

押し黙る私を確認すると、蒼甫がマイクを持って話しだした。

「森家、溝口家、ご両家の皆様。本日は誠に、おめでとうございます。私は当雅苑の副社長をしております、矢嶌蒼甫と申します」

蒼甫が頭を下げると大きな拍手が起こり、彼が頭を下げたのと同時に私も一緒に頭を下げた。