極上御曹司のイジワルな溺愛

「なんだよ、その溜息。溜息つくタイミングじゃないと思うけどなあ」
「だって急に復帰って言われても、この状態じゃ無理でしょ。残念だし申し訳ないけど、ふたりの結婚式は他の人に頼んだほうが……」
「待つってさ」
「え?」
「彼女が、椛じゃないと嫌だって。椛がMCをしてくれるなら、いつまでも待つって」

その言葉を聞いて心の奥底からブワッと、言葉では表せない気持ちが込み上げる。

「お前が真剣に真摯な態度で、新郎新婦と向き合ってきた結果だと、俺は思う」

グッと腰を引き寄せられ背中を擦られると、堪えていた涙腺が緩みだす。

「実は、椛が受け持っていた何組かの新郎新婦が、なんとか里中さんのMCでお願いできないかって言ってるらしい。遠山さんが困ってたぞ」
「そんなこと。麻奈美からはなんにも聞いてない……」
「彼女も大変だよな。お前のことは完治するまで休ませてやりたい。でもMCとしては、早く復帰してほしい。複雑な感情の板挟みだ」

困ったよなと笑っている蒼甫の顔は、私に何かを語っているようで。

「それって、早く復帰しろって言ってる?」
「それを俺の口から言えと? 俺だって椛のことでは、多くの感情と闘ってるんだ」
「多くの感情……」

それは仕事のこと? それともプライベートなこと?

聞きたいような、聞きたくないような……。

蒼甫の目に艶が帯びはじめているように感じるのは、涙で潤んだ瞳で見ているせい?

身の危険を感じて蒼甫から腰を引こうと試みるが、ガッチリ掴まれていて動くことができない。

「もう家にいるんだし、それ取ってもいいんじゃない?」

蒼甫はそう言うと、私の左肩からアームホルダースルッと抜き取る。