極上御曹司のイジワルな溺愛

「今日のメールの件です」
「メール? ああ、あれか。それがどうした?」

他人が見たら顔色ひとつ変えていないように見えるかもしれないけれど、私は蒼甫先輩の眉がピクリと動くのを見逃さなかった。

『それがどうした?』なんて、わざとらしい──

でもだからと言って、過敏な反応を見せるほど私もバカじゃない。

ここは穏便に冷静に。そう思っていたのに……。

「意味が……意味がわかりませんっ!」

口は勝手に、語尾を強めてしまう。

「意味? メールの内容通りだ」
「それがわからないと言ってるんです! 私が経営に携わるような役職にって、急にそんな話おかしくないですか?」
「そうか? 俺はそうは思わないけどな」

淡々と話をする蒼甫先輩に、私の心の中は得も言われぬ感情は爆発寸前で。

「そうは思わない? じゃあ、どう思ってるの? ちゃんと説明してくれないと、私はバカだからわからない!」

敬語を使うことさえ忘れてしまっていた。

「私から……私からMCの仕事を奪わないで……」

爆発しそうな激しい感情は私の瞳から涙を溢れさせ、見られまいと両手で顔を覆い隠した。

こういう時に泣くのは、弱さをひけらかしているようで嫌いだった。でも普段ならコントロールできる気持ちを、今の私にはどうすることもできない。

「椛……」

蒼甫先輩の優しく、それでいて困ったような声が耳に届く。ひくひくとしゃくり上げながらゆっくりと顔を上げると、蒼甫先輩が柔和な瞳で私を見つめている。